出版者(出版業を営む者。規模の大小を問わない)はこれまで、出版物の多様性の確保、読者への伝達、新たな著者・著作物の発掘育成に取り組み、出版という文化とビジネスの両立によって、日本の知の再生産のかなめの役割を果たしてきました。そして、いま活動している日本の出版社の多くは、デジタル時代を迎えても、この役割を果たしたいと考えています。
しかし、著作物を複製・販売するという出版ビジネスは、1980年代以降の複写機の普及にはじまり、さらにここ数年のデジタルコピー技術の進展によって、多くの侵害行為に直面してきました。被害の実証や法的な対応は、著作権を持つ著作者個人では難しく、出版社による組織的対応が必要です。このため、出版界は20年以上前から、出版物の版面を守る権利の必要性を訴え、さらに電子出版の普及に歩調を合わせて、著作隣接権の構成による出版者固有の権利を求めて来ました。平成24年6月に、中川正春衆議院議員の勉強会が発表した「中間まとめ」には、権利の具体的内容が盛り込まれています。
著作隣接権は当該の出版物にのみ働く権利であり、著作者の意思(著作権)には影響を及ぼさない法的構成のため、出版界としては最良の選択肢として、法制化を訴えてきました。ただ、いくつかの著作者団体からは、出版社が新たな権限を持つことに疑義が示され、「中間まとめ」公表後は、さらに経済団体等からも反対が表明され、平成25年2月には、日本経団連が、『電子書籍の流通と利用の促進に資する「電子出版権」の新設を求める』との声明の中で、隣接権案に対する逆提案を発表しました。
出版界は、出版文化、そして出版産業の未来について、さまざまな立場から多様な議論が沸きあがることを歓迎します。デジタル時代の本や雑誌の侵害の問題を乗り越え、流通をさらに促進させるため、誰もが当事者として責任を持って考え、議論することが必要です。 これまでの議論は、著作権法の権威である有識者の手により整理され(中山信弘東大名誉教授ら6人の研究会による「中山提言」)、平成25年5月から、文化庁文化審議会著作権分科会出版関連小委員会の場で著作権法改正に向けての具体的検討に入っています。
法改正は日本の出版文化の特性や著作者の意向に配慮し、複雑化する侵害行為に十分対処できる実効性を持ったものでなければなりません。出版界は、早期の法改正に向け、今後も、著作者の皆様はじめ、利害関係者のご理解を得られるよう説明につとめ、同時に出版契約による出版慣行の透明化などの促進も図って行きたいと考えています。
2008年 | 10月 | グーグル・ブック検索訴訟、和解案予備承認 (グーグルは世界中の書籍約2000万冊を無許諾で電子化 ) |
---|---|---|
2009年 | 5月 | 国会図書館デジタル化に127億円の補正予算 (国会図書館所蔵の1968年まで発行のすべての書籍が電子化) |
2010年 | - | 総務・文部科学・経済産業の三省による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」開催、出版社への権利付与の必要性を審議 |
12月 | アップストアで日本人作家作品の海賊版が販売されている問題で、日本書籍出版協会(書協)などが抗議声明 | |
2011年 | - | 文化庁「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」開催 出版社への権利付与の必要性を審議 |
2012年 | - | 日本書籍出版協会(書協)が、権利付与が電子書籍市場に与える全般的影響を調査、文化庁は、法制面の検証会議を実施 |
6月 | 「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会(中川勉強会)」で「出版者に対して著作隣接権を速やかに付与することが適当である」との中間まとめ公表 | |
活字文化議員連盟、「著作隣接権としての『出版物に係る権利』の法制化が必要」 との声明発表 | ||
7月 | 出版広報センター、東京国際ブックフェアにおいて、公開シンポジウム「電子書籍時代に出版社は必要か?――『創造のサイクル』と『出版者の権利』をめぐって」を開催 | |
ニコニコ生放送、「徹底討論 <出版物に関する権利>は是か非か」(MIAU Presents ネットの羅針盤)配信 | ||
文字・活字文化推進機構、衆議院議員会館で、公開シンポジウム「出版文化の今後と出版者への権利付与」を開催 | ||
9月 | 出版広報センター、東京と京都で、「出版物に関する権利」についての出版社向け説明会開催 | |
11月 | クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、東大で、「出版社の新しい著作隣接権を考えるシンポジウム」開催 | |
明治大学知的財産法政策研究所 、セミナー「出版者の権利とその役割」開催 | ||
出版広報センター、「出版物に関る権利(著作隣接権)」公開シンポジウム開催 | ||
2013年 | 2月 | 日本経団連が「電子書籍の流通と利用の促進に資する『電子出版権』の新設を求める」声明を発表 |
4月 | 「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会(中川勉強会)」で中山信弘東大名誉教授らによる「出版者の権利のあり方に関する提言」発表 | |
5月13日 | 第1回 文化審議会著作権分科会出版関連小委員会 開催(~12月20日 第9回) | |
6月13日 | 「電子書籍と出版文化の振興に関する議員連盟」設立 |