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公開シンポジウム 出版物に関する権利

2012年11月26日(月)14時から2時間、「出版物に関わる権利(著作隣接権)」の公開シンポジウム(主催:出版広報センター)が、千代田区の一橋記念講堂(学術総合センター)で行われました。
400名を超える参加者で会場は満員、熱気に包まれたシンポジウムでした。出席者は以下の通りです。

○挨   拶:佐藤隆信氏(新潮社社長・出版広報センター副センター長)
○報   告:植村八潮氏(専修大学教授・出版デジタル機構会長)
○パネリスト:植村八潮氏(司会)、石橋通宏氏(参議院議員)、大渕哲也氏(東京大学大学院教授)、
       野間省伸氏(出版広報センター長)、林真理子氏(作家)、弘兼憲史氏(漫画家)

パネリストの発言概要はこちら
植村八潮氏(司会) 大渕哲也氏(東京大学大学院教授)、 弘兼憲史氏(漫画家) 林真理子氏(作家) 野間省伸氏(出版広報センター長) 石橋通宏氏(参議院議員)

【開会挨拶:佐藤隆信氏】

佐藤隆信氏

◆佐藤隆信氏(新潮社社長・出版広報センター副センター長)
出版社には、本を出版する許可を著者から頂くだけで、それ例外の権利はありません。しかしレコード製作者には著作隣接権が与えられており、様々な違法行為に対し対抗手段を持っています。デジタル化が進み、違法行為がたやすくできるようになった現在のような時代には、出版者にもレコード製作者が持っているような権利、すなわち侵害に対して対抗処置のとれる「隣接権」という権利が必要になってきます。各方面に理解を広げていきたい。

【パネルディスカッションを前に:植村八潮氏による報告】

◆植村八潮氏(専修大学教授・出版デジタル機構会長)
出版物に関する権利について、権利獲得へ向かったきっかけと経緯、デジタル化に対する政府の対応や中川勉強会発足から今に至る取り組みなどについて経過報告しました。
本権利の目的について、(1)海賊版・侵害対策、(2)電子書籍の利用と流通の促進を挙げ、出版者の機能を保つためにも法的権利がどうしても必要になると説明しました。
 また法制化の方法については、文化庁ルートか議員ルートがあり、法制化のスタイルとして著作権法の一部改正、または新しい法律の制定の2つがあると解説。本権利獲得へ向け、その前提として、先ずコンセンサスを得るための運用ガイドライン検討委員会を設置、また本権利が運用された後のトラブルに備え紛争処理機関として「出版ADR」を設置する構想があることを発表しました。

植村八潮氏

【パネルディスカッション】各パネリストの主な意見、発言の概要

大渕哲也氏

◆大渕哲也氏(東京大学大学院教授)
今回は、「出版物に関する権利(隣接権)」の現段階での議論に対し想定されうる問題を提起してみたい。著者と出版者は一心同体だが、その両者が合意を得るためには契約が一番。これを出版界では出版権設定契約を基にこの共存共栄の形を図ってきました。
隣接権の話に移すと、それが何を対象にしているのかが、未だ明確化されていないと思う。例えば、「版面」を対象にしているとしても、この古典的ともいえる「版面」の概念が、現代の電子書籍の時代においてどこまで対応できるのか疑問が残ります。書籍を電子化する際、隣接権があると権利処理が二重になるのではないかというような懸念が存在していることは確か。
もうひとつ、この権利が立法化された際、周りにどのような影響を与えるのかという細かい部分を検討する必要があります。

大渕氏の「版面」に関する意見に対し、植村氏から「版面」に対応するものとして電子では「コーディング」があると説明。また、「コーディング」に対し権利を与えるとなると、コーディング業者に隣接権が付与されてしまうのではないかという懸念が大渕氏から出されたが、「コーディング」に指定や指示を与えるのは出版者であるとし、出版者に権利が帰属すると説明しました。


◆弘兼憲史氏(漫画家)
タダで作品が出回るとクリエーターがいなくなります。出版社は単なるビジネスではなく、文化事業として、学術書、専門書を発行し、赤字覚悟で必要な情報を提供し、重要な役割を担ってきました。しかし、その出版者には何の権利も与えられていない。出版者のこの活動、役割を守るためにも隣接権が必要。隣接権は、著作権の効力を侵害、制約するものではなく、著作者には著作権、出版者には隣接権という形でWIN-WINの関係になれるはずです。
また、多くの不良出版者も実際存在はしていますが、この場合の対処法としてADR(裁判外紛争処理機関)設置構想が用意されており、これに大きな期待を寄せています。また、隣接権を創設するには、議論に議論を重ねるより、先ずは始めてみて、具体的なトラブルがあった時に対処していく方法もあると思う。やはりスピーディに行動を起こさなくてはならない。漫画家協会としても、ガイドライン委員会の設置を条件に、この隣接権への支持の姿勢を示していると聞いています。

弘兼憲史氏

林真理子氏

◆林真理子氏(作家)
出版社の初版、増刷部数も減り、出版社も作家も売り上げが減っていて、ここ2、3年で様々な危機を感じています。作家と出版社は一蓮托生で、私も駆け出しの頃、編集者の方々に小説の書き方など、多くのことを学ばせて頂きました。また、連載を書き上げるために何人もの大学の先生からの協力を講談社さんの力添えにより得ることができたし、昨年も新潮社さんには2度も海外取材を手配してもらいました。このように、作品を完成させるための出版社の役割は大きい。
最近、本は物体として、個人がスキャンしようが何しようが勝手だという考えが蔓延している。IT事業者の方とも話したが私たちの権利に対してあまりに無知。出版社と作家との間にはある意味で牧歌的な関係が築けたと思いますが、デジタルの時代には、今までのような作品づくりはできなくなると確信しています。このままでいいわけがないし、一日でも早く出版社に権利が付与されてほしいと思います。


◆野間省伸氏(出版広報センター長)
出版社の大きな役割は、知の拡大・再生産と新しい才能を発見し投資をする、ということ。これが出版文化の拡大に貢献するものだろう。これをこのデジタル化された時代において維持するためには権利が必要になってくる。その理由は、まずは海賊版対策がある。海賊版は出版社と著作者の利益を損なわせるものであり、訴訟手続きに関しては、出版社の方がやりやすく、著作者の権利を侵害から守るためにはこの隣接権がなければできません。
またデジタル化、電子書籍等に関して言えば、国内外からくるIT企業が提案するサービスモデルは確かに面白いが、現実的には信用できないようなIT企業もあり、著作者やユーザーの心配を解消するためには新しい明確なルールがあった方が良い。著作隣接権という新しいルールができれば、著者へのリターンを保証し、ユーザーサービスにもなり、また新しいビジネスモデルの促進にもなります。
紙も電子も両方の市場を拡大していこう、そんな方向で頑張っていきたいと思っています。

野間省伸氏

石橋通宏氏

◆石橋通宏氏(参議院議員)
そもそもなぜ出版社に権利が必要なのか、というベースから私が参加している中川勉強会は始まりました。今のデジタル化の時代において、フェアな流通の円滑化は極めて重要です。海賊版ではない、正規のデジタル化された出版物が円滑に流通し、また利活用をされるためにはどうすればよいのか? 著者の権利を守ったままこれらを実行するためにどうすればよいのか? という議論の中で重要なのは、著作者の権利を守ったまま、出版者にも権利を与え、尚且つ、出版者には出版物の流通と保護の義務と責任を負わせるような権利は何かと考えた場合、著作隣接権が一番しっくりくるものだと思います。
侵害が生じた場合に著作者からその権利を譲渡してもらうことはできないし、出版権の拡大という選択も、結果として、出版者が著作者の権利の相当の部分を制限してしまう恐れもあり、多くの著作者はそれを望みません。しかし隣接権は、出版者に新たに権利を与えるもので、既存の権利を誰かから奪うものではない。また、今ある出版社に限らず、新たにビジネス参入しようとするものが、出版者としての義務と責任を負うのであれば、隣接権者になり得る可能性もある。これは産業保護と同時に、更なるコンテンツ産業の拡大の可能性を与えるものでもあります。

【今後への課題について

大渕氏:隣接権が出版者に付与されても、その行使を望まなければ、契約でその旨を規定できるとあるが、なかなか"NO"といえる著者もいないのではないか。また、隣接権では出版者に義務と責任が課せられるというが、この権利の持つ効力が働いたときに、その義務や責任といったものがどのように影響を及ぼすのかということも立法化するうえでは検討しなければなりません。 弘兼氏:もちろん議論も大切だが、議論を待っているうちに、どんどんスキャン業者などにより違法行為が行われます。諸々の問題があれば、その都度改定を行えばいい。また、著作者は自らの作品を引き上げて、他の出版社に移すこともできます。とにかく、ガイドラインを早く策定してスタートに立たなくてはいけない。

林 氏:著作権の問題は第一波がブックオフで、今回、第二波の電子化が襲ってきました。どうするんだ、どうするんだ、と言っているうちに、デジタル化や違法行為等の問題は社会的にも認知されるまでに至ってしまった。だからとにかく、一日でも早く出版物に関する権利を決めて欲しいと思います。

野間氏:我々は隣接権を主張しており、これは一番緩やかな権利で、受け入れられやすいと思います。著者の権利を脅かすものでもありません。また戦略的な意味も含め有効であるので、この権利についての理解をいただければと思います。

石橋氏:この権利を付与しても、出版者にはその利活用に関しては、著者との契約に基づいて行われなければなりません。この権利は、著者との契約を促進するものです。ITについては、デジタル化の動きはもう止められません。隣接権が付与されれば、ビジネスモデルを明確化させ、電子での利活用が促進されると考えてほうが良いのではないかと思います。我々も、日本の出版文化を守るために精一杯努力します。


【まとめ】植村氏

植村氏

本日はそれぞれの立場から発言していただきました。グローバル化、IT化の中で出版界の果たすべき役割、義務、これらは、出版界全体の問題としてとらえなければならないと思うし、関係する業界の方々や、実務者の方々などに、当然説明をしていかなければなりません。業界全体での理解なしに、「出版者の権利」といっても無理な話。やはり私たちが、今日まで果たしてきた仕事があったからこそ、世の中のこの劇的な変化のなかで、出版者にどのような権利が必要なのかという議論ができるのです。その上で、今後も、なるべく多くのこのような説明会、シンポジウムの機会を設けて、読者や、著作者など多くの方々に参加していただきたいと思います。