現在、本権利の内容として想定されている権利は下記にまとめる4つです。具体的な定義や解釈についてはこれから議論が進んでいきますが、ある出版物について「出版行為(出版物の企画・製作に責任をもつ出版者が、出版物の元となる印刷・配信用データ=出版物原版を作成すること)」が行われた場合、何らの手続きを必要とすることなく出版者に本権利が生じます。
下記の権利はいずれも著者が持つ著作権にも存在します。本権利はあくまでも著作隣接権であり、出版物の利活用に関しては前提として著者の許諾が必要となります。
紙の出版物、電子出版物の複製を行う権利。
出版物の違法コピーや違法スキャンに対抗する(取り締まる)ことができます。
文字通り、出版者が出版物原版を複製する権利のことを指します。出版物原版を複製するとは、紙の出版物においては出版物を印刷することに他なりませんが、出版物をスキャンすることや、出版物原版そのものを電子データとしてコピーすること、またデータ形式を変換することも、全て出版物原版の複製となります。複製権が認められれば、出版者が独占的かつ排他的に権利を持つことになり、出版者に無断で行われる出版物原版の複製に対しては、出版者は独自に法的対抗措置(訴訟など)をとることができます。
出版物をインターネット上で配信する権利。
インターネット上の違法配信に対抗することができます。
出版者が、電子出版物を読者のリクエストに従って、インターネットなどを通じて送信できる状態にする権利のことです。著作権法上の「自動公衆送信──公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く)」にあたります。具体的には、インターネットに接続されているサーバーにデータをアップロードすることと、データを記録してあるサーバーをインターネットなどに接続することの両方が送信可能化ということになります。
複製された出版物を販売することなどにより公衆に提供する権利。海賊版を仕入れて販売する業者に対抗することができます。
出版者が、出版物原版を複製したものを公衆に提供できる権利のことです。複製しただけでは出版物は読者の手元に届かず、取次・書店を通して販売されて初めて読者に届くことになります。このときに働く権利が譲渡権です。ただ、譲渡権は、一旦適法な譲渡(売買)が行われれば、それ以降行われる譲渡については働きません。これを権利の「消尽」と言います。読者が購入した本を古書店に自由に売却できるのは、譲渡権が消尽しているためです。なお、譲渡権は権利の性質上、有体物にのみ働きます。
出版物を有償で貸し出す権利。無許諾のレンタルブック業者に対抗することができます。
出版者が、出版物原版を複製して作成した商業用出版物を、貸与することによって公衆に提供する権利のことです。貸与権は譲渡権と同様、あくまで有体物を対象とした権利で、著作権者が、すでに存在する「一般社団法人 出版物貸与権管理センター」に自らの貸与権を委託することにより、出版物のレンタル事業が行われています。出版者の貸与権が立法化された場合には、同センターなどに著作権者と出版者がそれぞれの貸与権を委託する形でライセンス事業が運営されるものと想定されています。