Q1 | 「著作隣接権」、「出版物原版権」、「出版物に係る権利」、「出版物に関する権利」、これらは内容が異なるのでしょうか? |
A1 | 原則同一です。 出版界は20年以上前から出版者の権利として「著作隣接権」を求めてきました。昨今話題になっている「出版物原版権」、「出版物に係る権利」はこれまで要望してきた出版者の権利と軌を一にするものです。出版界では現在、「出版物に関する権利(著作隣接権)」と称しています(以下、総称して「本権利」といいます)。なお、著作隣接権は著作権法上で定義されている権利名称であり、著作権法改正以外の方法で本権利が付与された場合には別の呼び方となる可能性があります。 |
Q2 | 著作者が出版許諾を行った場合、出版者は自動的に本権利を取得するのですか? |
A2 | 特段の手続きを必要とすることなく取得します。 出版行為にともない出版者は無方式に(特別の設定・登録等の行為なくして)本権利を取得します。 |
Q3 | 出版者に紙の書籍に関して出版許諾を行った場合、自動的に電子出版も行えることになるのでしょうか? |
A3 | 著作者の許諾なく電子出版は行えません。 出版者は無方式に本権利を取得しますが、著作者が送信可能化権許諾を行っていないのに電子出版を行うことはできません。 |
Q4 | 出版者に紙の書籍に関する出版許諾しか行っていない場合でも、出版者は違法電子出版物に関して法的措置を執ることができますか? |
A4 | 当該出版者の出版物を元にした違法複製物に対してであれば可能です。 紙の出版許諾だけであっても出版者は本権利として想定される4つの支分権(複製権、送信可能化権、譲渡、貸与権)を取得します。電子出版に関する利用許諾を得ていなかったとしても、複製権・送信可能可権侵害として法的措置を執ることができます。 ただし、出版者の出版物の複製とはならない著作物の複製物(例えば、OCRやスキャンによらず、新たに文字を打ち直したテキスト電子書籍など)に対しては難しいと考えられます。 |
Q5 | 出版契約を結ぶ際に、本権利に関する不行使の条項を入れることは可能ですか? |
A5 | 可能です。 契約の内容に関しては当事者の二者で決められるものであり、無方式で生じる本権利の不行使に関する取り決めをするのも自由です。 |
Q6 | 本権利ができることで著作者の持つ著作権が何か制限を受けることになりますか? |
A6 | なりません。 本権利はその内容は著作隣接権(的なもの)であり、著作権ではありません。そして、著作隣接権は、著作者の権利に影響を与えることはできないと規定されています(著作権法第90条)。 |
Q7 | 出版社以外が本権利の権利者となることはありますか? |
A7 | あります。 本権利付与の対象と考えられている「出版者」は必ずしも一般的な「出版社」と同一ではありません。もちろんほとんどのケースでは重なると思われますが、本権利の権利者となるのは「出版物の製作に発意と責任を有し、出版物原版を最初に固定した者」であり、この要件を満たす者(例えば、主体的に電子配信を行う漫画プロダクションなど)であれば出版者となります。 |
Q8 | 特に電子出版における出版物原版の制作費用を電子取次や電子書店に負担させた場合、本権利は他社が持つことになるのではないですか? |
A8 | なりません。 本権利の権利者となるのは「出版物の製作に発意と責任を有し、出版物原版を最初に固定した者」であり、(発意と責任の要素の一つとはなるかもしれませんが)費用負担したかどうかで決まるわけではありません。 |
Q9 | 自費出版を委託した場合、受託出版社には本権利は生じますか? |
A9 | 原則生じません。 著作者の出版物として単に編集と制作に関する委託を受けただけで、完成した出版物をすべて著作者に納品するような自費出版取引の場合、本権利は著作者(委託者)に発生し、出版社には発生しないと考えられます。 |
Q10 | 文芸と漫画は分けて考える必要があるのではないでしょうか。 |
A10 | 誰が本権利の権利者となるのかについては、漫画家や出版社といった属性に着目するのではなく、実質的な出版行為を誰が担っているのかという観点から、判断されることが想定されています。 本権利は、出版行為により出版される出版物に関する権利です。この出版行為の具体的な内容に関しては現在、検討が進められています。かかる出版行為の主体は出版社である場合が通常であると思われますが、編集プロダクションや(マンガなどの)著作者を主体としたプロダクションが実質的に出版行為を行っている場合もあると考えられます。 |
Q11 | 第三者が出版物の利用を希望する場合には、著作権者及び出版者両方の許諾が必要ですか? |
A11 | 必要です。 出版物の利用の中で、本権利の支分権として想定される複製、送信可能化、譲渡、貸与に関するものであれば両方の許諾が必要となります。逆にそれ以外の利用(翻訳、翻案等)であれば、著作権者の許諾のみ必要となります。 |
Q12 | 本権利の導入前に出版された出版物についても、本権利が生じますか? |
A12 | 生じません。 他の著作隣接権が創設された際と同様の取扱い(遡及しない)が想定されています。 |
Q13 | 本権利の保護期間はなぜ25年と言われているのですか? |
A13 | 本件に類似したもので、欧米のいくつかの国では出版者に関する権利の存続期間が25年というものが多かったためです。 この点はこれから議論が必要であり、著作権と同じく50年であるべき、逆に同じ版が25年もそのまま使われることはないのだからもっと短くてよい、など様々な意見が出ています。 |
Q14 | 1つの作品に関する権利者が増えることにより、権利処理がかえって煩雑化してしまうのではないでしょうか。 |
A14 | 本権利を有する出版者が主体的に窓口となって行動することで、より円滑な権利処理となることが予想されます。 出版物は、程度の違いはありますが、装画、イラスト、写真、肖像、歌詞等様々な著作物の集合体です。こういった権利の集合体の権利処理を行えるのは「出版物の製作に発意と責任を有している」出版者しかありません。出版者に適正な権利(スタンス)を与え、それにより出版者が主体的に窓口となることで著作者及び利用者の要望に応えていくことが可能になると考えられます。 |
Q15 | 本権利ができることで、著作者と出版者の意図が異なる場合、作品の利用が行われない/できない、いわゆる「塩漬け」が生じてしまうのではないでしょうか。 |
A15 | その可能性は極めて低いと考えられます。 まず、本権利は出版物そのものの利活用を対象としているので、それ以外の翻訳・翻案等の利活用は対象外です。 出版物そのものの利活用において齟齬が生じうるのは、①著作者が出版物の利活用を行いたくないのに、出版社が行いたい場合、または、②著作者が出版物の利活用を行いたいが、出版社が行いたくない場合、のいずれかとなります。 ①の場合、本権利を有する出版者であっても、著作者の意向に反する出版物利用はできません。②の場合、著作者は、出版物の利活用を拒む出版者以外の出版者を通じて同一作品の利活用を図ることができます。 本権利ができることで、いわゆる「塩漬け問題」が生じる可能性は事実上ないと考えます。 |
Q16 | 本権利が導入されれば、日本国内外を問わず、出版物の侵害行為にはすべて対処できるようになりますか? |
A16 | 本権利に基づく直接対応が可能なのは、日本国内に限られます。 本権利は日本の国内法に基づく権利であり、海外ではその効力が認められません。 しかし、海外における侵害行為の中で多く見られる、scanlation、speed-scanなどはその根元は明らかに国内にあると考えられています。また、現状、出版者は出版物に関する固有の法的権利を有していないため、この種の問題検討を行う公の場に関与することが難しいのが実情です。本権利が認められれば、出版者も海賊版取締に関する政府間交渉等の機会を通じ、意見を述べることができるようになることが期待されます。 よって、本権利の導入は、海外における侵害行為に対しても、一定の間接的効果が期待できると考えられます。 |
Q17 | 本権利の創設は、新規事業者の参入にとって、過度な障害となるのではないでしょうか。 |
A17 | 現在の状況以上に、なにか本質的な障害を新たに設けることにはならず、かえって新規事業者の参入を促すことになると考えられます。 本権利は、個別の出版物を対象としています。別途契約のない限り、ある著作物について複数の出版物が存在する場合には、それぞれの出版物について別個独立の本権利が成立し、互いに影響することはありません。 よって、本権利が導入されると、自らが投資する出版物の法的保護を与えられた複数の出版者が、著作者の意向の下、ある作品(著作物)の価値の最大化を競うこととなる結果、健全な競争が促進されると考えられます。 |
Q18 | 自分が所有している文字原稿を利用、またはマンガ原稿をスキャンして、電子配信をすることはできますか? |
A18 | 特段の契約が存在しなければ、本権利との関係において問題となることはなく、著作者の判断で配信可能です。 本権利は出版物に関して生じる権利です。原稿は出版物(原版)の基礎となる著作物であり、その複製が本権利を侵害することはありません。 |
Q19 | 自著の単行本をスキャンして、電子配信することはできますか? |
A19 | (本権利が存続している場合)出版者の許諾が必要です。 (本権利が存在しない場合)できます。 Q18にあるとおり、特段の契約がない場合、著作者が所有する原稿を元に新たに電子配信を行うことに出版者の許諾は必要ありませんが、出版者が発行している単行本をスキャンする場合には出版者は隣接権としての複製権を有することになるため許可が必要となります。 ただし、そもそもこの点が問題となり得るのは、本権利に関する法改正がなされた後に出版された出版物に限られます。 なお、原稿が失われている場合の取扱い(出版者の原版提供協力)等については、別途、ガイドライン等を設けることが検討されています。 |
Q20 | なんらかの事由により、出版者が行っている出版物の発行及び電子書籍化を終了したい場合どうしたらよいでしょうか? |
A20 | 出版者と締結している契約を適正に終了させてください。 著作隣接権である本権利は、著作者の権利に影響を与えることはできません(法第90条)。従って、その利活用に関する出版契約もしくは電子出版契約が終了すれば、出版者はそれ以上の出版行為を行うことができません。 |
Q21 | 自分の作品を複数の出版者に許諾したいと思っていますが、可能ですか? |
A21 | 原則として可能です。 同一作品(著作物)であっても、異なる出版物(原版)として出版されれば、互いに別個独立の本権利が成立しますので、先行する出版者が本権利を有しているからといって、後発の出版者への許諾が妨げられるわけではありません。ただし、作品の許諾を独占で行うケースは当然ありますので、その場合には自由に許諾できるわけではありません。 |
Q22 | 単行本として短編集やアンソロジー集を刊行する場合、当該短編の掲載雑誌を刊行した出版者から許諾を得る必要がありますか? |
A22 | 原則として必要ありません。 ただし、こういった場合、ジャンルごとに業界慣行が存在しますのでご注意ください。 業界慣行は、出版の円滑化、二重許諾等の事故防止などに役立っており、本権利の有無にかかわらず、これらを無視していいというわけではありません。 |
Q23 | 本権利をほかの出版者に譲渡することは可能ですか? |
A23 | 可能です。 本権利は出版者固有の権利であり、出版者は自由に譲渡できるのが原則です。 |
Q24 | 本権利の譲渡を防ぐことは可能ですか? |
A24 | 出版者との間であらかじめ契約を締結しておくことにより、防ぐことができます。 著作者が出版者との間で、本権利の譲渡禁止を定めていれば、出版者はこれに反して本権利を譲渡することはできません。また、出版者が許諾を受けた権利を第三者に譲渡しないという条項はこれまでの出版契約の中でかなりの割合で記載されていると思われます。 なお、譲渡を防ぐことができない場合でも、著作者は本権利を譲り受けた出版社に対してそれ以降の出版を認めない旨を通知することにより、出版を取り止めさせることが可能です。 |
Q25 | 私の作品を出版していた出版社が倒産しました。私の作品の本権利はどうなりますか? |
A25 | 倒産時の法的処理の枠組に応じて、管財人や債権者によって処分されることになります。 本権利は出版者が固有に持つ財産的な権利であるため、原則として処分を拒むことはできませんが、著作者は、本権利の譲渡を受けた者に対し、譲渡以降の出版を認めない旨を通知するなどの方法により、本権利の譲渡を受けた第三者による出版をさせないことが可能です。 |
Q26 | 出版物の複製行為を伴わず、テキスト情報を元に、ある出版物の版面を新たに組んだ場合、元の出版物に関する本権利は及びますか? |
A26 | 及びません。 本権利は著作隣接権であり、著作権ではありません。レコードについて、既存のレコードの音と同じ音を作り固定した場合と同様、本権利の効力は当該原版についてのみ、及ぶものと想定されています。 |
Q27 | 出版物に掲載されている作品の世界観やキャラクターを使った同人誌は本権利との関係で問題となりますか? |
A27 | 本権利との関係で、同人誌が問題となることは原則としてありません。 本権利は、著作物のパッケージとしての出版物に関する権利であり、出版物に化体される著作物に関する権利ではありません。同人誌の中に、引用等の一般的制約の限度を超えた出版物のデッドコピーがされているなどの例外的場合を除き、同人誌が本権利との関係で問題となることはありません。 |
Q28 | 著作者以外の制作者(装画家、写真家等)との関係はどうなりますか? |
A28 | 特に影響はありません。 本権利は著作権に影響を与えるものではありません。 本権利を出版者が取得するからといって、作品の中に含まれる装画や写真の著作権が、出版者に帰属したり、制限されたりすることはありません。もちろん、別途発注書面を含む契約により権利譲渡が行われている場合にはこの限りではありません。 |